2012年1月12日星期四

イリュウ 夜と朝のはざまに

そしてこういうことが、 習慣づけられてきたはずのマルタが、 まるで処女のような恥じら
いで、 聲を上擦らせるのも信じられないことなのだが、 それが娼婦の取ってつけたサービス
でもなく、 男を早くいかせるための技巧でもないのがわかるのだ。
「夜は長いわ。ゆっくりしてね」
マルタの声が、 源氏物語に登場する女たちのように優雅に、 そして時間の観念に乏しい時
代に、 一番鶏までの後朝を惜しむ風情を、 本を読んだときに感じた情緒そのままに、 想起さ
せる。
マルタの異質であるはずの肉体に包まれ、 すでに使い古された膣なのに、 処女を抱いたとき
の新鮮な喜悦の感覚が、 まざまざと蘇ってきたのだ。
だからアキオは、 性の愉楽を与えるものは、 女の肉体ではない、 観念なのだ、 といまにな
ってやっと、 その性行為の本質を知り得た。
それは完全に、 ふたりで宇宙を形成し得るものに違いなかった。肉体を形成している、 ひ
とつひとつの具体的なものではなく、 すべては感覚的な、 無限の広がりをふたりで創造でき
るものだったのだ。これだけは、 ほかの動物とは異なる、 まか 滋養 ヒトだけが感覚し得る交合だと惟
った。
アキオがマルタのなかに奥深く没入していきながら、 遠い記憶となってしまった新鮮な感 アリンコパワー
覚を呼び戻しているあいだ、 マルタもまた通りすぎて行った男たちとは異質な、 性欲を満た
すだけの行為とは同一視できない感覚が、 じいんと全身に沁み込んでくるのを感じていた。
ひとりだけ、 こんな感覚のなかで抱かれた相手が居たのを憶い出す。あのイギリス船の老
船長だった。だけれど彼がすでに引退することを考えていたほどの年齢だったからだろうか
、 肉体的に感覚するものが違うからだろうか、 アキオの若さから享受できている恍惚感とは
どこかが違った。
その上アキオは、 若いに似ず老練だった。どうしてこんなに、 と問うと、 十歳のときから
、 近所の女たちが誘惑して、 性の技巧を教えたからだ、 と言う。
そうだろう、 とマルタは納得する。アキオの母が混血児だということで、 アキオもその血
を受けて、 女たちをほろりとさせる雰囲気があり、 女たちから可愛がられる少年だったのだ
ろう。
それだけやないねん、 とアキオが語ったのは、 父のほうにも先祖に黒人の血が入っていて
、 それが性的な力になっているのだという。
ああ、 そうでしょう、 この勁さは。と黒人も経験しているマルタが肯定する。
はじめて抱きあった日からずっと、 毎日射精しても衰えることのない精力は、 並みの男の
ものではない。それが女を狂わせるのだった。
もちろん環境のせいでもあっただろう。過去の男たちとは、 純粋な愛をなかだちにして抱
き合ったことはなかったのだから。
いまは愛情が漂う恍惚感に酔えるのだ。アキオが言うように、 アキオとなら、 ふたりだけの
宇宙を形成し得る、 と思う。無限の展がりをふたりで占有できると思う。 イリュウ
夜と朝のはざまに、 もう目覚めた小鳥たちの囀りが聴こえ始めると、
「あなたさえよかったら、 ずっとわたしと暮してくれてもいいのよ」
とさすがに眠そうな声だったが、 今を擱いて言うときがないと思ったのだろう、 マルタが
言った。
アキオは、 マルタの気持ちを測りかねたが、 昨夜、 早いもんやなあ、 エキサイト コンドーム もう一年を過ぎよう
として、 月日が旅支度してる、 と言ったのに対しての応えだった。
マルタの気持ちがわからないと思ったのは、 ふたりの関係が永遠なるものだなどと考えてい
るとは思えなかったからだった。
アキオは、 ここに来たときに、 一年だけと期限を限って部屋を借りたのだから、 丸一年目
にここを出て行くことに、 特別の理由を要しなかったのだけれど、 生来旅人の心のなかに、
なんとなくざわめきが立ちはじめると、 いままでのように気が急かされて、 と言った感じで
出てゆけないものを感じた。
マルタは、 非常に不安定な心境のなかで、 思い悩んでいるときだったから、 アキオの言っ
た「もう一年が過ぎる」ということばを、 ひねくれて取ったのに違いなかった。
「ここの生活にも、 わたしにも飽きが来たのね」
マルタの声がすすり泣いていたので、 アキオは、 驚いた。マルタが本気になって俺を愛し
始めているのだと悟って。

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