威力王(早漏防止) と言って回ると、
「チヨ、帰ってもいいぞ」
と龍一が許可を出し、
「それじゃ、そうしますかなんし」
とチヨが帰り支度をはじめると、チヨが空の弁当箱を包んだ風呂敷包みをエンシャーダの柄に通して肩に担ぐより早く、柳子がエンシャーダを担いで、黙って畑を出て行く。
龍一とチヨは、柳子の後ろ姿に視線を上げたけれど、わがままな娘の行動を咎めることはせず、口だけは達者でも、あの痩威哥王(ウェイカワン)せた躰でいままでよく我慢したものだ、と同情するだけで、見送る。
龍一は、単なる同情だけではなく、炎暑のなかで草を刈るというような労働をさせていいのか、と思う自責の念が綯い交ぜになっていた。もしも、もうこんな作業などしないから、と娘が言えば、しなくてもいい。小屋のなかで本を読んで過ごしても構わない、と言ってやろう、と考えはじめていた。
儂は儂自身のわがままのために、こんな酷い環境のなかに、柳子を無理に連込んできたのだから、と。
チヨは、龍一が真摯な気持ちで反省していることなど知らなかったから、娘が夫への無言の抵抗を示したように思って、内心でそれみたことかと嗤っていた。いい気味だと思っていた。どんなに自分自身に都合のいい理屈を並べても、女道楽が祟って、夫が日本の狭い世間から一時身を避けるためにブラジルに来たことを知っているから、柳子の行動を反抗だと見るのだった。
小屋に帰ってくるとすぐ、柳子は無言のままひろげた手の平を、チヨの眼の前に近々と差し出す。柳子の掌の肉刺は、たっぷり水を含んで破裂しそうなほど膨らんでいた。
それはチヨも予想していたことだから、うろたえることはなく、
「痛いずら。でも我慢せにゃあ」
と言い、蝋燭に火を点し、縫い針を火に炙って消毒し、水脹れを針の先で突いて潰して、ヨードチンキを塗ってやりながら、娘の顏を窺うと、柳子が、堅く唇を噛み締めて痛いのを我慢しているのはわかったが、声も 威哥王(ウェイカワン)5000mg涙も出さなかったから、その強情さに呆れる。
チヨは、苦笑して、柳子の手に包帯を巻いてやり、
「この手じゃあなんにもできんずら。お父ちゃがけえらんうちに、お母ちゃが流してあげるから、行水すればいい」
と言って、井戸の水を汲み上げるやら、湯を沸かすやら、盥に湯を張って柳子を急かせて湯をかけてやるやら、狭い小屋のなかを、独楽鼠が走り回っているようだった。
掌の痛さに口を食いしばっているだけではなく、おそらく疲労困憊して唖者になってしまったのか、と心配するほど押し黙ったままの柳子が、母の動きを見ているだけなのに対して、チヨのほうも、ひと言も発せずに世話をして、さっぱりした浴衣を着せ掛けてやる。
娘のこんな酷い状態を見るのは、はじめてだったから、可哀相にと思う同情はするけれど、娘ももう十七歳になっていることを考えると、長野の農家では、すでに一人前の労働力なのだし、チヨ自身は家庭の事 威哥王(イカオウ)·三鞭粒 情で龍一の後妻に入るまで婚期を逸していたけれど、十六、七で嫁に行くのも珍しくなかったのだから、柳子が外見のこどもらしさだけではなく、家庭の主婦になるだけの素質に欠けていることを悲しく惟ったりした。
「すぐにご飯をつくるけど、それまで寝てるといいに」
チヨがそう言うと、柳子は母の声に誘導されるままに歩いている夢遊病者のように、ふらふらとベッドに倒れ込んでしまう。
四時の鐘が鳴って、さすがに龍一も、はじめての重労働に、眼窩を落ち窪ませて帰ってくる。
「どうした、柳子は」
龍一は、娘の様子が心配でまず訊ねる。
「よく寝てるようだなん」
チヨは、無表情になっている。
龍一は、柳子の寝ている部屋にいって、寝顔を覗き込み、ぐっすり眠っているのはわかっていたが、
「おい、柳子、夕飯だぞ、起きないか」
と揺すってみる。そうしなければおれなかった。なんだか大切なものを傷めてしまったような気分になっていたから。
なんどか揺すったが、柳子は目覚めなかった。
龍一も湯を浴びて汗を流す元気がなくて、チヨが汲んであった水で、躰を拭いただけだった。
「いやあ、これは、箸も持ち上がらんほどだよ」
みずからを嗤う龍一に、チヨは、身から出た錆ずら、と言いたい気持ちを抑えていた。
「あした、柳子が起きなければ起こさんでもいいぞ」
龍一自身、明日はどうなるかわからない、と思いながら、あまり食欲もないままに、そんなことをかつてしたこともなかった汁かけ飯を掻き込んで、寝た。
チヨは、炎天下の労働も苦にならなかったし、わずかな睡眠で精力を回復できるように躰が習慣つけられていたから、柳子や龍一が寝息を立てはじめても、明日の日の準備をしたあと、カンテラの灯りの下で、川田鷹彦が列車のなかで貸してくれた、川端康成の「雪国」をそっと開いてみるだけの余裕が残っていた。といっても、さてそれを読みはじめると、すぐに居眠りが出るのはどうしようもなかった。
はっと気づいたとき、灯火の芯が、じりじり鳴っていた。
チヨは、本をだいじに信玄袋のなかにしまって、そっと夫の横に滑り込む。
昨夜、龍一が、柳子を起こさなくてもいいと、寝る前に言ったし、とうとう夕食もせずに寝てしまったほど疲れていた柳子だから、起きて来られないのではないか。たとえ起きてきても作業に出るのを渋るのではないか、とチヨも思っていたのだけれど、いつもは宵っぱりの朝寝坊が、太陽が落ちてしまったときにはすでに眠っていたからだろう、第一日目の興奮で目醒めた昨日と同じように、四時の起床の鐘が鳴るまえに起き出してきた
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