日曜日のほうが忙しい秋子と、 日曜日には遊ぶだけの柳子が話す時間がないから、 平日の昼の休みと、 夕食後のひとときには、 柳子と秋子はべったりくっついて情報の交換をするようになっていた。
「そういえば中村さんのところは、 日本にいたときから神戸と山形で同じかたちの別居生活していたって言ってたんじゃなかったぁ」
それをそれほど変には思っていないような柳子の言い方で、
「その習慣がついてるんじゃないかしら」
とつづけた。
それにしても二十三歳の中村義一と二十歳の松二だから、 早漏 普通なら青年らしい溌剌とした感じがなくてはならないのに、 常に俯いて歩き、 ときおりじろっと斜めに掬い上げるような眼つきで見るのは、 秋子の言う「欝陶しい人」という感じそのままだった。
そんな青年たちと母親がいつもくっついて親子の情愛を暖めているように視えるのは、 親子だからそれでいいのだろうけれど、 そして須磨子と父親とが仲睦まじいのも父娘だから当然なのだけれど、 夫婦のなかと姉と弟のあいだが非常によそよそしい感じに視えるから、 歪つな家族だ、 と見る人に奇異な感じを与えるのだった。
「ひょっとしたら、 あの人ら、 ほんまの夫婦や姉弟やなしに、 なんかの都合でつくってきた家族構成ちゃうかしら」
そう言えばそうかもしれないと思わせる、 秋子の穿った想像だった。
事実、 移民のなかには、 嘘の家族構成を無理してつくって、 ブラジルに来てから、 虚偽の家族構成を元のかたちに解体して、 別れて行くものもいたのだ。
入植した日の自己紹介の折り、 須磨子が説明した通り、 貿易商社に勤めていたという父と須磨子が同居をしていて、 母と息子たちは山形でほそぼそ農業していた、 という変則的な生活も、 つくった話かもしれなかった。
なんとなく暗い感じを受けるのは、 嘘があるからではないのだろうか。
真偽のほどはともかくも、 そういう変則的な生活をブラジルにきてからも、 そのままつづけているのだから、 夫婦のあいだにも、 姉弟のあいだにも、 肉親とは思えない冷たさが流れているのが、 他人の眼にも視えるのだろうけれど、 そう見られていることなど承知しているからだろう、 彼らが日常的な挨拶も交わさないのは。
それならば、 ひとつ不審な点があった。弟たちが揃って、 自己紹介のときに、 姉の自慢をしたことだった。よほど密着していた家族でないものが言えない科白だったから、 ブラジルに来る直前には、 いっしょに暮らしていたのだろう。
とにかく中村の家族は、 体力の衰え ふたつの殻に閉じこもって、 外部との接触を断っているように視えるのも事実だった。
そんな付き合いの悪い人なのに、 なぜそういうことを考えついたのか、 ある日曜日の朝早く、 柳子のところに須磨子が訪ねてきて、
「教会に行きましょう」
と誘った。
「えっ」
柳子はいっしゅん、 須磨子が何を言いにきたのか理解できなかった。表現が非常に一方的で、 押し付けがましい言い方だったから、 反撥を覚えた。
「教会に行きませんか」とか、 もっとほかに言い方があるように思うのだけれど、 相手の意向も考えず、 いきなり「行きましょう」と、 柳子がとうぜん承諾してついてくるものと思っているような、 高飛車な言い方だったのだから。
いや、 もっとひどいのは、 柳子が教会に行くときの服装まで干渉したのだ。
「これを着て行かれるといいでしょう。わたしが縫ったの。あなたの背格好を見て寸法取らなくても目分量で縫ったんだけど、 ちゃんと着られるようにできてると思います」
そう言って、 持ってきた白いブラウスと黒いスカートを差し出すのだから、 柳子は唖然とするしかなかった。なんという自信。いや自信などというものではない、 呆れるほどの傲慢さだ、 と。
いったいこの人の神経はどうなってるのかしら、 わたしはお転婆で突飛なことをすると人から言われているけれど、 この人の行為は突飛などと言うものではなく、 異常だと思う。
日常的な交際をしないから、 人間の交際の仕方も知らないのではないのだろうか。すべて世の中は、 中折れ 自分自身が考える範囲のなかで動いているとでも思っているのではないのだろうか。
こちらが、 教会に行くとも行かないとも返事もしていないのに、 こちらの意向を無視して、 教会に行くのにふさわしい服装だからと押しつけてくるに及んで、 柳子はかちんと反撥を覚えずにはおれなかった。
「キリスト教信者のなかには、 非常に常識を逸脱したものの考え方をする人が多いよ」
良三叔父が言ったのを想いだす。
そういえば父も、 いつだったか、 「ひとつの宗教に凝ると、 呆れるほどのエゴイストになって、 他人の思惑など無視して、 自分本意な考え方を押しつけてくるものがある」と言っていたが、 これほど独断的な人もめずらしいのではないだろうか。
まったく狂信者の典型だわ、 と呆然とするほどだったが、 ここで呆然としていては、 相手の強引さに引き摺り込まれてしまう。
「わたし、 ペニス短小 いまのところ、 教会に行く気などないのですけど」
柳子が、 かっとなった気持ちを抑えて、 むしろ冷たい感じに言い放つのにも、 須磨子は意に解することなどなく、
「柳子さんはまだ世の中の汚れに染まっていないから、 いまのうちにキリストの教えをよく勉強なさって、 まっすぐな道を歩まれたらいいと思ってお誘いするんです。人間はこの世に生を享けたとき、 すでに罪を背負ってくるのですから、 神に許しを乞わなければなりません。神に祈ることによって、 日々の罪深い行いを償えますし、 日々の労働の辛さからも救われます」
と宗教への勧誘をはじめる。
大きなお世話だ、 と柳子はむっとする。むっとした感情を露わにして、
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