2011年11月24日星期四

滋養強壮 熊野は

柳子が、 支配人のところに駆け寄って、 手を振って抗議する。
支配人は、 柳子のほうに見向きもせず、 まっすぐ頸を立てて、 茂を荷台で押さえつけている黒人青年三人を乗せたまま、 精力剤 車を急発進させる。もうもうと砂煙が立って、 周囲に居たガイジンたちも日本人たちも、 いっせいに後退り、 鼻と口を手で覆う。
しばらく日本人は呆然としていたが、
「おい、 みんな、 熊野だ、 熊野のところへ行くんだ」
と叫んだ龍一の声に、 はっと目覚めたように、 ちょっと身構えたあと、 どどどっ、 と駆け出してゆく。
自動車は広い道を走らなければならないけれど、 人はコーヒー畑のなかを突っ切って行けるから、 熊野のところに行き着くのはどちらが早いともいえない。
細くて小さくて敏捷な柳子は、 即効勃起薬 コーヒー樹のあいだを掻い潜るようにして走る。
走りながら柳子は、 急いでブラジル語を覚えなければならない。鷹彦さんから特訓を受けなければならない。ペドロをもっともっと活用しなければならない、 としきりに思う。
こんどのことで、 痛切に言葉の必要性を感じたのだ。言葉が通じないばかりに、 小森のおじさんが狂人にされてしまっているのだから。
コーヒー畑を斜めに突っ切って走る人たちよりも、 自動車のほうが早くて、 ほかのものを大きく引き離して走ってきた柳子が、 熊野の家に着いたときには、 もう支配人が車から降りるところだった。
熊野も、 なにごとが起こったのかと思ったのだろう、 戸口に顔を見せていた。
柳子が息せき切って到着すると、 支配人が熊野を叱責していて、 熊野が、 弁解がましいというのではなくて、 案外に横柄な口調で言い返していたから、 へええ、 熊野さんてわりかし偉いところがあるんだなあ、 と思いながら聴いていた。
聴くといっても、 ふたりの会話のほとんどは理解できないのだけれど、 「コモリ」とか「ジャポネイス」とか、 さきほど覚えたばかりの「ロッコ」だとか、 馬の世話をしてもらうときにペドロから教えてもらう断片的なブラジル語を拾い集めて、 単語と単語のあいだは判断でつなぎ合わせて、 支配人が小森を気違い病院に入れると主張し、 熊野が小森は気違いではないと主張しているらしいのが、 おぼろげながらわかってくる。
そこに小森の子供たちにつづいて、 龍一もやっと到着して、
「どうなった」
と喘ぎ喘ぎ、 柳子に訊ねる。
「支配人と熊野さんが言い争っているだけでわからない」
柳子の言うのを聴いて、 龍一は呆れる。呆れながら支配人と熊野のあいだに頸を入れて、
「熊野さん、 ふたりが言い争っていても埒があくものですか、 どうして監督と小森さんを
突き合わせて尋問しないんですか」
と詰る。
当然そうすべきなのを、 支配人が頭から熊野の怠慢だの、 すぐに気違い病院に小森を入れるだの、 新移民の監視を厳しくするなどと、 一方的な言い分で抑えてくるから、 自分自身の立場を擁護するためにだけ懸命になっていたのを、 熊野は反省する。
支配人は、 農場労働者の不満が募ってストライキに入られたり、 暴動に発展することを怖れて、 監督と労働者のあいだに争いが起こると、 言い訳などを聞いておらず、 直ちに労働者を追放したり、 こんどのような状況のときには精神異常と決め付けたほうが早期解決になると考えているから、 そのことだけに捉われていたのだ。
とくに精神異常者は、 農場から速やかに排除しなければ、 ほかの労働者に不安材料を与える要因になるし、 支配人自身の立場を脅かす原因になるから、 事情聴取などという無駄な時間を惜しんだ。
イタリア人やドイツ人労働者は、 リーダーを立てて交渉に当たることに慣れていたが、 日本人はまだそういう労働争議の解決方法を採らず、 個人的な問題として、 夜逃げをしたり、 ペニス増大 契約違反の罰金を支払って出てゆくものが多かった。
その点で、 熊野のように、 幼児のときに来て、 二世と同じようにブラジルの習慣を身につけているものは、 上下関係を意識しすぎる日本人にはできないことだが、 ガイジンとの話し合いにおいて、 雇用主と使用人とが対等な立場に立って物が言えた。
龍一の提案を支配人に伝え、 苦々しい顔をする支配人に構わず、 滋養強壮 熊野は、 荷台の底に惨めな恰好でくず折れている茂を助け起こし、
「ほれ小森しゃん、 しっかりせんね、 あんたどぎゃんしてこういうことになったんか、 説明ばしてやらんね」
と、 やさしい声をかける。
「どぎゃんして、 言われて、 わてにもさっぱりわからしまへん、 どこでどう間違うたんやら。そやけど、 あんまりひどおまっせ、 なんでわてを寄ってたかってぎゅうぎゅう押さえつけて苛めなあきまへんのんだっしゃろ」
「あんた、 気違いにされとるばってん、 暴れんように押さえつけとるたい」
「なんでわてが気違いにされなあきまへんのんだす」
「それを訊いとるばい、 なんで気違いにされたんたいね」
「そやさかい、 わても訊いてますねんがな、 なんでわてが気違いにされなあきまへんのかて」
「あんたらええ加減にしなはらんかいな、 ふたりがなんでや、 なんでや訊き合いしとっていつになったら埒あきまんのや、 あほらしい」
茂と熊野のどちらもが、 なぜこういうことになったのかと、 訊ね合ってる、 ばからしい問答に痺れを切らして、 タツが非難する。
「監督が腰を抜かして起き上がれないようになった原因はなになんです」
龍一が、 ひとつの事例を出して、 説明する糸口を与える。

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