2011年11月30日星期三

花痴 最近の流行なの

ゅっ、 と抱きしめる。
「あまり手荒く扱うな、 貞操を失ったの水 おまえは加減知らずに馬鹿力出すんだから」
アドルフが、 息子を窘めると、
「バカでも、 親よりは学問があるんだ」
とアントニオは、 嘯く。
「どうなのよ、 ジーナとの生活を話しなさいよ」
柳子のもっとも関心のあるのはそのことだった。
「うんまあね、 話すこともないさ」
アントニオの冷淡とも取れる言い方に、 柳子はあまりしつこく訊ねな
いほうがいいかも知れないと惟う。
「子ども、 かわいいでしょ。連れてきたの」
「ああ、 ジーナが向こうの親のほうに連れて行ってるよ」
「そうよねえ、 嫁さんにしては里帰りだものね。サンパウロのほう巧く
行ってるの」
「暇だからね、 勉強してるよ」
「何の勉強」
「日本のこと」
「日本のことぉ」
「ああ」
「どうして日本のことなのよ。アントニオの体内にはドイツ人の血が流
れているのに」
「それはもう勉強済み。だからこんどは同盟国の日本の勉強さ」
「うれしいこと言ってくれるのね」
「元愛人のリューコの国だものね」
「ちょっと待ってよ。誤解を招くような言い方しないでよ」
「いいじゃないか、 俺にとってのリューコは初恋の人で、 失恋した相手
だもの」
「もうそのことに拘らないって約束じゃないの」
「表立てはしないよ。俺ひとりの胸のなかで思うのはかってだろ」
「それは勝手だけど、 ジーナを寂しがらせないってことも、 あのときキ
スさせた条件だったわよ」
「ああ、 それは守ってるよ。その証拠にもうすぐ次が生まれるんだ」
「あら、 そうなの。おめでとう」
「ところでその日本のことだけど、 いまでもサムライが居るらしいね」
「そんなもの居ないわよ」
「嘘言うなよ、 日本にサムライがいないだってえ。日本の象徴じゃない
か、 サムライとゲイシャとマウント・フジは」
「困るなあ、 そんなものを日本の象徴だなぞと単純に惟っていられたら

「違うのか」
「違うってことでもないんだけど、 富士はいまでも聳えているし、 芸者
は赤坂に居るらしいけど、 わたしは知らないわ。特殊な社会だから」
「特殊な社会なのか」
「そうよ、 ブラジルでも、 男の人が遊びに行くところに特殊な女の人が
居るって言うじゃないの。言葉が違うだけで、 芸者はどこの国にだって
いるのよ」
「ああ、 ゲイシャというのはそういう女のことか」
「そうよ、 社交界の接客婦のこと」
「サムライはいるだろう。サンパウロで会った日本人が、 俺はサムライ
だと言ってたよ」
「そうじゃないわ、 もうサムライはいないの
よ。いないって言うのはちょっと違うかな。名称が変わったの、 軍隊っ
て。どこの国にもいるじゃない、 権力者のそばには、 いつだって護衛が
ついて居るでしょ」
「じゃあ、 ハラキリはしないのか」
「ううん、 龍根増粗王 それは返事に困るよねえ。昔は強制的にハラキリさせられた
んだけど、 いまでは自分の意志で腹を斬る人もいるけど、 アントニオの
質問の内容とは、 ちょっと意味が違うんじゃないかしら。どっちにして
もねえ、 アントニオ、 日本といえば、 フジとサムライとゲイシャってい
うのは、 あまり学問のない人が言うことだから、 中途半端な知識で言わ
ないほうがいいんじゃないかしら」
「はははははあ」
柳子とアントニオの遣り取りを聴いていたアドルフが、 笑い出す。
「アントニオの学問の底は浅いもんだ、 リューコのほうが、 いろんなこ
とを、 よく知ってるようじゃないか」
父から指摘されて、 アントニオは、 むくれる。
「わたしもそんなに知らないわよ、 でも、 日本の象徴をフジとゲイシャ
とサムライというもので括ってほしくないのよ、 いまの日本の特殊なも
のじゃないから。みんなむかしのことなんだもの」
「そうか、 いまは、 サムライはいないのか。あのおやじさん、 俺はサム
ライだ、 と言ってたんだが」
「それは精神的なことを言ってるんで、 かたちとしてはね、 さっきも言
ったように、 言葉が変わっただけで、 ブラジルにも居るでしょ、 ミリタ
ルが」
「なんだそうか、 サムライというのはミリタルのことか」
柳子は、 何でも知っているとアドルフから褒められたけれど、 ほんとう
はアントニオの無知を嗤えないのだ。
柳子自身も、 ほとんど日本の歴史には関心がなくて、 詳しいことは知ら
なかったのだから。
鈴木一誠が熱心に日本の歴史を学習していて、 日本の女学校を出てきた
柳子が、 ブラジル生まれの二世から、 日本の歴史を教わるという、 恥ず
かしい状態だったのだ。
それでも、 日本のことだけに限っていえば、 アントニオよりは知ってい
るからと思って、 いかにも物知り顔に言っているのだ。
「イスパニアと同じ年の、 一八六七年に、 日本でも革命が起こって、 次
の年に徳川政府が倒されて、 新しい政府ができたとき、 侍が腰に刀を差
して歩くことを禁止されたのよ。そのときにサムライという言葉も無く
なって、 軍隊とか兵隊とかいうものに代わったの」
「じゃあ、 ハラキリも、 そのときになくなったわけか」
「まあ、 そういう風習がね。でも日本人は恥の概念を重んじるから、 人
から辱めを受けたら腹を切るという精神は残っていると思う」
「ああ、 そうそう、 それだよ、 学生仲間で問題になったのは。日本人の
エスピリットについてだったんだ」
「あら、 そうだったの、 じゃあ、 わりと高尚な議論をするのね」
柳子は、 何度も同じことを繰り返しているあいだに、 アントニオの話
題にしていることの内容と、 知りたい意味がわかってきて、 むげに軽蔑
してはいけないなあ、 と思う。
「大学出だもの」
アントニオも、 やっと柳子から認められて、 鼻を高くする。
「もう弁護士さまだものね」
マリアが口を挟む。母親としては、 息子が弁護士になるという誇らしさ
に、 黙ってはおられなかったのだろう。
父親のアドルフでも、 以前警察署長の前で、 アントニオが弁護士になる
ということを自慢にして言っていたのだから。
「そうすると、 なんだな、 サムライのチョンマゲもなくなったわけだな リュウコンゾウソオウ

またアントニオが、 話を元に戻す。
「チョンマゲは侍だけじゃなく、 むかしはそういう髪型が一般的だった
のよ。それも革命政府になってから、 断髪が奨励されて、 皆が髪を剪っ
たの」
柳子も、 「断髪令」が出たからというところまでは知らなかった。
「それでリューコも髪を剪ったのか」
アントニオの言ったことが唐突で、
「ええっ」
と柳子のほうがびっくりして、 椅子から転げそうになる。
アントニオが危うく支えて踏みとどまらせる。
「それは関係ないのよ」
柳子は否定したけれど、 ほんとうに関係のないことなのかどうか、 自分
でわからなくなる。
しかし、 はっきりしておかなければ、 サムライやハラキリと混同されて
しまいそうに思う。
「女性が髪を剪るようになったのは、 花痴 最近の流行なの。男女同権の意志
を強調するためによ」
「おう、 そうか、 ブラジルでもこの頃、 女が一人前の口をきくよう

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