2011年11月27日星期日

中折れ なにがあったん

それならば優雅な貧乏だ。趣味に金かけて没落する貴族並みの贅沢ではないか。
人生を可能な限り楽しむという、 そんな生き方が、 ほんまの生き方かもしれへん、 と最終部分を大阪弁で考えて、 東京の人間にはでけへん贅沢や、 と柳子も納得した。
小森が貧乏する原因は納得できても、 いっしょに入植した五家族のうち、 この農場に居残るのは小森の家族だけらしいと聴いて、 柳子は、 ぎゅっと胸を絞られる思いをした。
こちらはすでに土地を買っていて、 そこに移転して行くのだという好運な状況を、 父から口止めされているだけではなく、 あまりにも残酷な気がして、 秋子に言うのを、 言いそびれていた。
思ったことや考えたことを、 言ったりしたりしないでいるのは、 柳子自身にとって非常に苦痛なことだった。しかし、 それを言うことで、 せっかく正常に戻った 友情に、 また罅が入りそうに思えて、 こわかった。かといって、 言わずに居るのも友情に悖るのではないのかと考えると、 辛かった。言うのが友情なのか、 早漏 言わ ないのが友情なのか、 判断できなかった。
いままでなら、 相手の気持ちなど考えずに、 思ったことをすぐ口にしてきた柳子だったから、 それを抑制できることだけでも成長したのだろう。
だけれど上を向いて歩けなかった。日曜日に馬に乗って散策するときでも、 背を伸ばしてこれ見よがしに歩けず、 敗残兵のような姿勢になってしまうから、 しぜん馬上から視る風景が、 殺伐としたものに映った。
コーヒーの実を毟り取られた枝たちの、 無慙な姿が視野を占領しているからだろうか。

今日も最後の地均し作業だった。裸になったコーヒー樹の枝が、 枝垂れ桜の枝のように垂れ下がっているのを持ち上げて、 樹の根方に土を放り入れる作業をしながら、 アラモというところに移転するのよと、 いつ秋子に言おうか、 体力の衰え と思い迷う。
柳子は、 酒を飲んで酔ったのがいい結果になって、 父に対して抱いていた疑惑とか、 蟠りとかが解け、 移って行く土地も手に入れたということと相俟って、 家族三人のなかが、 いままでになかった温もりで具合良く溶け合うようになったのを感じていた。
秋子のほうは、 柳子の家庭の事情とは反対に、 酒に溶かそうと思って飲んだ苦痛が、 酒に溶かしきれず、 もう、 どうにでもなれ、 という自暴自棄のほうへ流されたのが、 いままでにない夫婦の諍いと、 兄弟姉妹の口喧嘩が頻繁になったことから想像できた。
そんな秋子に、 明るい希望に満ちた話などできるはずはなかった。
なんとかこんな憂鬱な、 そしてふたりのあいだに蟠っているギクシャクした状況を、 打破して、 ぱっと気分を晴らせる話題はないものか、 と考えつづけているうちに、 恰好な話の種に気づいた。
実を?ぎ取られたコーヒー樹の枝枝に、 もう薄緑の脹らみのあるのを見つけていた柳子だった。これだと思った。まだよく見なければ見えないような芽生えだったけれど、 これこそ明日に希望を持たせる現象ではないか、 と惟っただけで柳子の胸も膨らんだ。
「秋子さん視たあ」
柳子が、 移転のことを言えない大きな辛さを、 小さな若芽のほうに転化させて、 秋子の人間臭い憂欝に翳っている気持ちを、 明るい自然現象の膨らみに誘い、 心の勾配を図ったのだけれど、 彼女自身の眸をさきに耀かせていた。
コーヒー樹の若芽が、 まえに視たときよりもさらに膨らんでいて、 樹皮のうちら側に再生の息吹を、 はっきり感じさせていたのだ。これこそ春の胎動を思わせるいのちの営みのすばらしさだった。
「どうしたん、 中折れ なにがあったん」
秋子も、 柳子の眼の耀きにつられて、 いっしゅん陰気くささを忘れ、 ペニス短小 気持ちの塞がりを押しひろげていた。
柳子は、 秋子の閉ざしていた岩屋の戸が開いて、 彼女の心のなかに仕舞い込んでいた陽性の種子が、 弾けるのを感じた。
「もうコーヒーの芽が脹らんできてるのよ」
「ええ、 ほんまあ、 このあいだ?いだばっかしやのに」
「ほれ、 ここ視てごらんよ」

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