2011年11月30日星期三

蟻力神

ったからなあ」
「なんだか、 女が出てくるのが不服らしい言い方するじゃないの、 男女
同権が不服なの、 アントニオは」
「いやそういうわけじゃないけど」
「日本人の男も、 なかなかそれを認めたがらないのよね」
息子があやふやな返事をし、 韓国終極痩身 隣の娘は不服たらしく言ったから、 父親
のほうが黙っておれなくなったのだろう、
「そりゃ無理だ、 男が女を養ってるんだから」
とアドルフが、 大きな目玉をいっそう剥いて抗議する。
「これだからね」
マリアが、 そう言って席を立つ。
まあ、 なんだかだ言ったけれど、 アントニオがこんな話題を出したから
、 歴史の復習ができたのだ、 と柳子はむだではなかったことに気づく。
なんといっても、 アドルフさんの血には半分ドイツ人の血が入っている 蟻力神
んだから、 アントニオも祖父の優秀な民族性を汲んでいてもおかしくな
いのだ。
こういう話を持ち出してくるガイジンなど、 いままでいなかったのだか
ら、 と柳子も隣人を疎かにできないと惟うようになる。
そのドイツ人のことだが、 ブラジルには、 イタリア人とドイツ人の移民
がたくさん入っていて、 それが日本人と同盟を結んで世界を敵に回し、
不穏な情勢を煽り立てている現状だったから、 民族自決意識の勁いジェ
ツリオ大統領が、 みずからも移民の子でありながら、 イーリーシン ブラジル民族創世
の幻想を追って、 各国からの移民が、 それぞれの民族意識を持つことを
嫌うという横車を押し、 ブラジル語以外の教育をシャットアウトする暴
挙に出ているのに眼をつけた連合国側が、 さかんに反日独伊同盟思想を
煽り立て、 南米諸国の連合国への参加を裏工作していたのだ。
一九四〇年に年が改まると、 社会情勢も世界情勢も改まらねばならない
ように変化してくるのが、 そういうことにあまり関心のない柳子でもわ
かるくらい顕著だった。
鈴木一誠が読んでいるブラジルの新聞が、 二〇〇レイスから一挙二倍の
四〇〇レイスになって、 あきらかにブラジル経済がインフレの様相を示
すようになり、 それが恒常的になってゆくと、 国民の生活意識にまで変
革があって、 世界の気ぜわしさが、 ブラジルにも伝播し、 もともとのん
き者の多いブラジル人まで、 せかせかと歩くような気がし出す。
日本人やドイツ人などは、 ポルトガル人やイタリア人のように、 安易に
混血することを嫌っていたこともあって、 異質な民族と見られていたか
らだろう、 ブラジル人たちのほうからも、 露骨に敵対意識を見せられる
ような形勢が、 皮膚感覚として伝わってくるようになる。
しかしそうとばかりは言えない。隣の牧場主は、 ドイツ人と黒人の混血
なのだ。
そして混血であることを恥とはしない。むしろ誇らしげに、
「儂の死んだ親父はドイツ人だ」
と黒い顔を耀かせる。
日独伊三国同盟が調印されたというニュースを聴くとすぐ、 アドルフ
がやってきて、 蟻力神
「パラベンス(おめでとう)」
と言って握手を求めた。
龍一は、 握手をする理由がわからないから躊躇っていて、
「お父ちゃ、 握手しなさいよ」
と柳子から窘められる。
「なんで握手するんだ」
龍一は手を出しながら、 まだその理由を訊いている。
「理由などどうでもいいじゃないの。相手が手を差し伸べてきたら、 ま
ず握手するのよ。握手してから理由を訊ねたらいいのよ」
それはそうだ、 と龍一も思って、 アドルフと握手する。
握手している男同士をにこにこ笑って視ながら、
「アドルフさん、 どんなおめでたいことがあったの」
と柳子が訊ねる。
「ドイツと日本とイタリアが三国同盟を結んだんだ。儂らが隣人という
だけじゃなくって、 国同士が誼を交えたんだよ」
それだけのことで、 わざわざ握手をするためにきたアドルフがにこに
こしながら帰ってゆくと、 まるで国際感覚に鈍い日本人を代表するよう
に、 龍一がようやく握手の意味を知って、
「そうかあ、 日独伊三国同盟というのは、 半分ドイツ人の血を持ってい
る男が、 隣人の日本人に握手を求めてくるようなことだったんだなあ」
と感心しているのだ。
のんきなのは龍一ひとりではなく、 その三国同盟が、 欧米諸国を敵に
して世界戦争に拡大してゆくことになるだろう、 と考える日本人はほと
んどいなかった。
それを敏感に感応して対処したのはブラジル政府だった。そして危惧を
具体化したような政策を施行した。外国移民は一人残らず外国人登録を
して、 常に鑑識手帳を携帯して外出しなければならない、 という制度を
実施したのだ。
「あのね、 お母ちゃ、 いままで商店が広告用に配っていたカレンダーに
、 日本語を入れてはいけないことになったんだって」
柳子が、 青年たちがしていた噂を家に持ち帰って言うと、
「まあ、 なんちゅう嫌な雰囲気になったんずらねえ」
と、 世間との接触も田澤以外はほとんどない、 まして政治的情勢変化に
関心もないチヨが、 暗い顔をする。
「儂らに関係なぞない。ガイジンらが何言っても、 知らん顔しておりゃ
あいい」
ブラジルに来ても外歩きの好きな龍一は、 同じ外歩きの好きな柳子より
、 広い範囲を知り、 広い交際があるというのに、 外国に住んでいても、
日本人は日本人だけの社会で生きておられると考えていた。
「でも、 それで済みゃあいいけど。やはり日本人は日本に居るのが一番
いいんずらね」
「ばかっ」
龍一の怒声が、 久しぶりに出て、 まだまだ女性解放は道遠しだなあ、 と
柳子に惟わせる。
「お父ちゃ、 家庭不和はガイジンから嗤われるわよ」
柳子が、 隣の半分ドイツ人の血が混じった黒人のアドルフでも、 亭主関
白だったから、 まあ仕方のないことかと思いながら、 父を窘める。
「こんなことを家庭不和とは言わん。家長が妻を従わせとるだけだ」
龍一には、 娘の考えなど考慮する気は毛頭なかった。
「ああ、 お父ちゃ、 その家庭不和で思い出したけど」
「変なことで、 ほかのこと思い出したりなどするな」
「まあ横暴ねえ。その変なことなのよ。小森のおばさんの病気のことよ

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