チヨのよく透る声が、 射精障害 ちょうど西から吹いてくる風向きの加減もあってか、 静けさのせいか、 ずいぶん距離があると思うここまで届いた。
柳子がわかったという合図に、 手を振る。
「まずコーヒーの樹の手入れをして、 除草して、 横の畑を耕して、 玉蜀黍の種を播いて、 野菜はチヨに任し、 なあ、 柳子」
大雑把な計画を、 龍一が言うと、
「うん」
と返事をした柳子の声も、 早朝の陽光に映えて、 きりっ、 と切れ味が良かった。
こんなにしみじみと、 そして具体的なことを言う、 父のことばを聴いたのは、 はじめてではなかったか、 と柳子は胸のなかの膨らむのを快く覚える。
「まあまあ、 柳ちゃ、 お父ちゃも、 足元がびっしょり濡れて」
チヨの声にも、 温もりがある。
「採り入れどきだけ臨時雇いを入れて、 あとはぼつぼつ、 三人だけでやろう」
龍一が、 柳子との話のつづきに言うと、
「のんびりゆっくりでいいわよねぇ」
と龍一に似てのんきなくせに、 思い立ったことは、 すぐに実行しなければ落ち着いておれないという、 せっかちな柳子がそう言うのだから、 よほどゆったりした気分になっているのにちがいなかった。
農業は、 それを営利事業とせず、 みずからの生命をつないで行くための、 食物を作る労働だと考えれば、 気も躰も楽なものなのだ。
ましてブラジルは、 バナナとマンジョカさえ植えておけば、 あとはバナナの葉蔭で、 一年中寝ていても、 なんとか命をつないでゆけるという呑気な国なんだ、 とスイス人耕地に入ってから聴いた。
五アルケーレスの土地があれば、 家族が食べるだけの芋や玉蜀黍を植え、 何か換金できるものをつくって、 日用品を手に入れるだけのものくらい、 収穫して売るのに、 たいした覚悟もいるまいと思う。
ひどい旱がつづかないかぎり、 親子三人、 ひもじい思いもするまいと、 生来が呑気な龍一と、 龍一の血を受けた柳子の考えそうなことだった。
アラモ植民地は、 周囲の日本人植民地と少し事情が違って、 むかしポルトガル人がこの辺り一帯に大農場を経営していたのが没落したおり、 相続争いを解決するために売り出されたものだから、 当時の相場と比べてうんと格安だったので、 ドイツ人と黒人との混血児であるアドルフが半分を購入し、 避妊 あとの半分を五アルケーレスづつの小割にしたものを、 日本人が買って入植したのだということだった。
だから近隣はみな日本人ばかりで、 日本人村にガイジンが一家族住んでいるようなものだった。
周旋屋の山田が、 この辺りの地形をざっと書いた図面では、 龍一が購入した農地だけが、 その広大な牧場の南側に、 ヘルニアのようにぶら下がっていて、 あとは牧場の北側に日本人が入植しているという。
そんな理由から、 隣の牧場のアドルフは、 性欲欠乏 日本人馴れしていて、 龍一らが移転してきた日から、 なにかと親切にしてくれた。
「困ったことがあれば言ってくれ」
隣に新しい日本人が来たというので、 様子を見に来たアドルフが言ったが、 困ることといえば、 柳子の片言のポルトガル語だけが頼りで、 龍一もチヨも会話などできる状態ではなかったから、 隣同士の付き合いがスムーズにできるかどうか、 ということだった。
アラモ植民地は、 北にノロエステ延長線がチエテ植民地のほうに延びていて、 南にノロエステ変更線が三年ほどまえに完成し、 地の利は悪くなかったが、 西と東は雑木林に囲まれているから、 周囲とは独立した小規模の植民地に見えたうえに、 アドルフの牧場が大きな面積を占有していて、 避妊薬 その南側にぶら下がっている龍一の購入した土地だけが、 ほかの日本人たちと離れていたから、 まだ付近の様子がわからない今、 孤島に来たような不安はあった。
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