2011年11月30日星期三

神の蟻王 いたけれど

涙だけが頬を伝った。
金さえあれば、 ブラジルのなかに、 日本を引き寄せ、 日本の正月がで
きるのだ、 と惟うと、 金のことしか頭になかった母を、 エゲツナイ人や
と軽蔑したことを、 間違っていたのではないだろうか、 と思ってしまう
。世の中がそういう仕組みになっているんやったら、 やっぱり金に執着
せんと、 ええ生活はでけへんのやさかい、 と思わざるを得なかった。
そんな質的な食文化も然ることながら、 その量の多さにも圧倒される
。大食漢の春雄が、
「どこぞに売りに行くんかあ」
と訊ねたほどだった。
茂が、 搗きたての餅を、 大根卸しで食べながら、  
「ブラジルの大根卸しは、 眼から涙が氾濫するほど辛うおますなあ」
と涙をぼろぼろ溢したのは、 大根卸しが辛いばかりではなく、
「こないに正月がめでたいこと実感したん、 あとにもさきにもおまへん

という感激からだっただろう。
屠蘇の盃に涙を溢して、 洟をすすり上げ、
「こないなめでたいときに、 泣いたりしてすんまへん」
と謝る茂に、
「かまわんです。うれしくて泣くのに遠慮は要りませんよ。こういう感
激は、 異国に移民してきたもんにしか味わえないもんですよ」
そう言った田澤も、 無骨な顔を涙で濡らした過去があったのだろう。
密林を伐り拓き、 植民地を造る過酷さのなかで、 福潤宝カプセル 友を失い、 みずから
も森林梅毒に犯されて、 鼻を欠けさせた田澤が言うことには、 実感が伴
っていた。
ブラジル大地の一角に、 安住の地を得て、 ようやく平和な正月を迎え
るための餅を搗き、 屠蘇を祝い、 もう他人から嗤われるようなこともな
く、 農作業ができるようになった茂だ
ったから、 どんなに感激して涙を溢れさせても、 それは誰もを納得させ
る場景だった。
田澤も、 茂が泣く様子を、 温かく見ながら、 福源春カプセル 移民してきたものだけが
異国で味わえる喜びとして、 その喜びを同胞と分かち合えることに満足
していた。
小森一家は、 その満足感を与えてくれたもっとも顕著な存在なのだ、
とも認識し得た。
そんな盛大な感激が、 盃を満たして溢れるほどの宴会に、 タツが姿を
見せないのが、 田澤の家族を不審がらせ、 富子などは、 チヨに向かって
、 タツがどういう性格の人なのかと訊ねたほどだった。
チヨも、 タツの病状が急激に悪化していることを知らなかったから、
年の暮が押し迫ってくるのにつれて、 タツの憂欝もいよいよ追い詰めら
れたように、 彼女の美貌に翳が差し、 傍のもまで気分を暗くさせていた
から、 いつまでも見識高く、 逆境による精神的捩れのために、 嫉妬心が
異常に勁くなっているのではないのだろうかと思い、 そんな人を田澤の
ところに世話したことを詰られているように考えるのだった。
「あの方は、 いまでもむかしのことが忘れられずに、 精神的な挫折感が
ひどいようですなんし」
チヨは、 タツのことを、 どう説明していいのかわからずに困った。
そんな鬱陶しいことの嫌いな田澤甚平は、 茂に向かって、 家庭の事情
に立ち入るわけではないが、 タツが家のなかに引込んで顔を見せない理
由を訊ねないわにはいかなかった。
「奥さんはどんな具合で」
「へえ、 ご心配おかけしまして申し訳おまへん。タツのやつは、 よっぽ
ど躰の具合が悪いらしいて、 失礼さしてもらう言うとりますので。ほん
まのこと言うて、 あいつがおらんほうが、 みなさんに鬱陶しい目見せん
でええ惟うてます」
茂が言うだけでは、 タツの様子がどういう具合なのかわからなかった
が、 冷たいようでも、 それが人情をわきまえたことだったから、 茂に非
難がましい眼を向けるものはいなかった。
盃を交わしながら、 茂がぼつぼつ話すタツの症状を聴いて、
「腹部が異常に膨張して、 妊娠しているように見えるというのは、 あな
た、 ブラジルの風土病に罹っているんじゃないかねえ」
と甚平はすぐに風土病と結びつけて考えたけれど、 腹が膨れるという
症状が、 妊娠を除いたほかにも、 腹壁が厚くなる。ガスが溜まる。器官
の一つが大きくなる。腹内のどこかに腫れ物ができる。腹腔内に液が溜
まるなど、 いろいろあって、 素人判断のできることではなかった。
タツが肥りすぎて腹が膨れてきたということはないのだから、 何かの
病気に罹っているのは間違いない。
肝臓、 脾臓、 膵臓、 腎臓、 副腎、 膀胱など、 福源春カプセル 内臓に故障が起こって腹が
膨れてくるという症状はいくらでもあった。
しかし、 タツの周辺で、 そういう知識のあるものは居なかったし、 ブラ
ジルに来た一農年の過酷さだけが、 すぐ思い出されたから、 そのために
疲労困憊した身体に休息を与えるのがもっとも有効な治癒方法だろう、
と誰もが安易に考えたのだ。
田澤甚平は、 初対面のときに、 タツの顔色を見て、 ああこの人は、 なに
か悪い病気に取り憑かれているようだ、 と思ったのだが、 それが身体的
な病気というよりも、 心の病ではないかという精神的なものに考えたし
、 ひょっとすると婦人病かも知れないとも想った。
それを富子に話すと、 富子は、 悪い病気と言う甚平のことばから、 あの
顔色は性病に罹っている顔色のようだ、 と言った。
タツの顔色が、 田澤夫婦にそんなことを思わせるほど、 どす黒くなって 神の蟻王
いたけれど、 美形であることには違いなかったから、 甚平は、 富子の嫉
妬が言わせるんだろうと惟った。
暮の忙しいなかで、 タツを医者に診せてはどうか、 と甚平から言われ

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