2011年11月23日星期三

性交痛塗り薬 めずらしく顔を硬張らせる

「お父ちゃん、 あんな人らと比べんといてほしいわ。あの人らは出稼ぎなんかとちがうんやし、 女性精力剤 奴隷で連れてこられた人の子孫やさかいに。まあウチらもおんなじようなもんやけどね、 好きで来たんちゃうさかい」
「あれえ、 秋子。えらい言い方するやないか。ウチらもおんなじや言うて、 わてがいつあんたらを奴隷扱いしましてん」
なんでも冗談にしてしまう茂も、 性交痛塗り薬 めずらしく顔を硬張らせる。
「あんたがそのつもりでのうても、 結果はおんなじだすがな。ひどい生活さされてますさかいな」
タツの甲高い声が割り込むと、 せっかく角が取れてきている、 と柳子らに思わせたのも束の間で、 またことばが尖って目尻が釣り上がる。
迂闊に吐いたことばが、 ひょんな拍子にこじれてしまって、 思いもよらなかった険悪な空気になったから、 茂の顏がひょっとこのように歪む。
柳子はそれを見て、 悲哀とおかしさを同時に感じた表情の処理に困る。
「ものごとは結果だけを天秤にかけるもんやおまへんで。もう片一方に原因の錘乗せてもらわな困りますがな。わて一人のせいにせんといとくれやすや。わても好き好んで破産さしたんやおまへんがな。わてとこだけやのうて、 ぎょうさんの工場潰れてますねん。世界じゅうが傾いてますねんで。よう覚えといとくれやすや。わてがなんぼ頑張ったかて、 どないもならしまへんかったんだす。そんなこといまさら言わんかて、 あんたらも知ってることや思うてましたけどな」
茂の言うとおりで、 タツも秋子もそれはわかっていたのだけれど、 あまりに境遇が急変したために、 神経が尖ってしまって、 思い遣りがついて行かなかったのだ。
「お父ちゃん堪忍してぇ、 ウチがちょっと苛々してて言い過ぎたんやさかい」
あっさり秋子がみずからの非を認めて謝ったから、 ダイエット ぼやが大きくならずに済んだ。
どうなることかと心配していた柳子も、 捻れさせていた気持ちを元に戻す。
近ごろ、 小森の家族の精神状態が平穏になってきていると見えたのは、 表層だけのことで、 ちょっとしたことばの引っ掛かりで、 それが大きく裂けて波風が立ち、 白い歯を剥きだすのを思い知らされた感じだった。
まだまだみんな、 心の底には理不尽な環境に追い込まれたことへの忿懣が燻っていて、 いつ爆発するか予想のつかない海底火山のようなものなのだ、 と思った。
ここで最低級の賃金労働者として、 ただ食うためにだけ働いている環境から、 這い上がって出て行ける日が来るまでは、 ほんとうの平安な生活を迎えることなどないのだ、 と柳子にもわかった。

そんなある朝のことだった。柳子は、 なんの気なしに炊事場の板壁の隙間から隣の炊事場を覗いて、 タツの夫への底意地の悪さを目撃する。
柳子が思わず、 へええっ、 と息を呑んだほどの、 陰湿なタツの行為だった。
タツが、 メリケン粉を水で溶いただけの、 キリストが十二使徒に分かち与えたのと同じ型のパンを焼いていて、 フライパンの上で引っ繰り返すときに手元が狂って、 フライパンから飛び出し、 土間に落ちた。
上女中や下女中や賄婦など、 いわゆる大阪弁で言う「おなごしはん」をぎょうさん使うてましたんやけど、 と自慢していたタツだから、 炊事場のことをする手が鈍っていたのだろう。パンがフライパンから飛び出したのだが、 これくらいは日常茶飯事、 周章てる様子もなく、 土間に落ちたパンを拾い上げ、 ぱんぱんとパンについた土埃を手で払って、 すでに焼いて皿に盛ってあるパンの下に潜り込ませる。
むかしなら、 土間に落ちて土のついたパンなどさっさと惜し気もなく捨ててしまったかもしれないだろうが、 現在の生活ではそうもできないのはわかる。もったいないから、 あとでタツ自身がそれを食べるのだろう。

詮索好きな柳子でも、 それを意地悪い眼で追っていたわけではなかったが、 ちょうど土間に落としたパンが最後に焼いたパンだったらしく、 食卓に運んで行って、 食卓を敲いて待っている子どもたちの前の皿に、 重ねたパンを上から順に配ってゆき、 主人のところまでくると、 さきほど土間に落としたパンを皿の底から引っ張りだして、 夫の前の皿に乗せるのを、 はっきり視たのだ。
ふうん、 なるほど、 そういう意地の悪いことをして、 日頃の欝憤を霽らすのか、 と柳子は呆れながら感心する。
「またかいな」
すぐに家長が不満を口にしたから、 そういう意地の悪いことをするのは、 いまはじめてのことではなく、 すでに何度か土のついたパンを食べさせられていたのに違いなかった。
これはまた、 夫婦喧嘩のはじまりそうな雲行きだな、 と柳子が興味をそそられて様子を窺っていると、
「ほんまに黄粉まぶしたみたいだすな」
と言いながら、 茂はパンをぱたぱた叩いてから千切って、 口に入れる。
そのいかにも不味そうな顔で食べるのを見て、 柳子は、 気の毒だけれど、 おかしくて、 おかしさを堪えるのに涙が出そうになった。
「それくらい辛抱しなはれ。わてらあんたのオイドについてきて、 暑いさなかに文句も言わんと働いてあげてますねんで」
文句たらたら言いながらなのに、 文句も言わんとなどと平気で言って、 そのうえ自分自身のことでもあるのに、 働いてあげてますねん、 と恩着せがましく言うのを聴いて、 ダイエット 柳子のほうが呆れる。
女房が働くのは当たりまえのことだとしても、 娘や息子に辛い思いをさせているのを充分心得ている茂だから、 多勢に無勢、
「へえ、 さよか、 それはどうも、 よう働いてもろうて、 おおけにおおけに」
と逆らわずに恩に着て、 やんわり体を躱している。
そういう彼らの内部事情を垣間見て、 本人たちはいざ知らず、 傍から見ている分には、 小森の家庭はなんでも言いたい放題に言って口喧嘩しているように見えても、 それが近親相姦的な戯れ合いに思えて、 一人娘で戯れ合う相手のいない柳子には、 嫉妬を覚えるほどの親しみに見えるのだから、 ふしぎだった。
我が家の静けさとはぜんぜん異質な小森の家庭の明るさだった。
こちらは柳子ひとりがなんだかだと言うけれど、 龍一もチヨも口数が少ないから、 一家団欒という雰囲気からは、 非常に掛け離れている。
とくに、 チヨは冗談口を好まないし、 父はこの頃なにを考えているのか、 呑気そうには見えていても、 日本での女遊びから脱却して何も考えていないはずはなく、 赤道を越えるときに変身したのだという分だけ真面目になった反面、 少し陰気臭くもなっていた。
その朝、 目撃したことを、 柳子がチヨに話すと、 チヨは、 へええ、 と呆れて眼を丸くしただけだったが、 龍一は、
「あの女は底意地の悪い女じゃ。旦那がへえこら言うもんじゃから、 男を蔑ろにしとる」
などと、 まるで謹厳居士のような顔をして、 男の主権の回復を促すようなことを言った。
隣の噂をしているときに、 隣から呼ぶ声がして、 どきっとする。秋子だった。
隣との境の、 板壁のいちばん隙間の大きなところに目玉を持っていって柳子が覗くと、 ばったり秋子の目玉と合って、 もう一度どっきりさせられた。
「柳ちゃん、 ちょっと」
隣を覗いたり、 隣の家族の噂をしていた疚しさがあったから、 秋子の「ちょっと」に油断なく身構える恰好になって、
「どうしたのぉ」
とおずおず訊く。

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