を敵に回して獅子奮迅に戦っても、 旗色が悪くなっているというニュースのせいだった。そ
して、 こんなところで暢気にしていてもいいのかという惟いに囚われたりする。
自分自身の人生は夢にすぎてもいいが、 日本の戦争は速く勝利によって終わって欲しいと願
う。
そうだ、 この病院を退院したら、 こんどは自分自身の生活のために心を砕くのではなく、 も
っと日本人社会のために身を砕かなくてはならないと惟う。
胃を半分切り捨てて、 体内から悪質なものを削除した結果、 食事に気をつけるだけで、 気分
的にはすっきりした感じがして、 手術のときに切開して縫合した抜糸が済むと、 ブラジルに
来てから我武者羅に生きて来たことで纏わりついていた諸々の清算ができたあとの、 清々し
い気分になり、 龍一は毎日病院の内庭をぐるぐる歩き回って、 体力の回復を図っていた。
そうしているうちに、 この病院のなかに、 日本人の看護婦、 雑役婦、 付添人というように、
何人もの日本人がガイジンたちのなかで働いているのを視て、 もともと農業移民としてブラ VP-RX 2代目
ジルに渡って来た日本人のはずだったものが、 日本人植民地社会を離れて、 ブラジル人社会
に紛れ込んで生活しているものの多いのに気づいた。
そして、 もう明日か明後日には退院できるという日に、 いつものように散歩をしていると、
「おじさん、 ビリリティピルズ 2代目 ナイトウリュウイチさんですね」
と日本人の青年から声を掛けられ、 龍一はとつぜんだったので、 ぎくっと立ち竦む。
「そうですが、 あなたは」
と龍一は、 すばやく青年の全体像を把握しようと視線を彼の全身に這わせる。
そして、 どこかで見たことの在る顔だ、 と遠い記憶を探っていた。
「ぼく、 稲村敬一です」
「稲村、 敬一くん。稲村というと、 あの佐久の」
「ええ、 佐久の稲村敬造の息子です」
「ああ、 敬造さんの。ほう、 敬造さんの。それがどうしてこんなところに居るの」
龍一は、 狐につままれているように、 ぼんやりした感じで、 もう一度青年の全身を見直して
いた。
稲村といえば、 伯父から遡っていった何代目か先から派生した姻族で、 血の繋がりが在るの
か無いのか、 龍一も辿れないほど遠い親戚だったが、 信州でも名の知れた馬喰の元締めで、
二足の草鞋を穿く家柄だったから、 親戚のなかでも毛色の違うことで敬して遠退く扱いを受
けていたのを想い出した。
その稲村の家族のなかでも、 敬造という男は性格が粗暴で、 酒乱することが多かったから、
いっそう懼れられていたのだ。
敬造の息子の敬一という青年が居たことなど、 VVK Wenickman 儂の記憶には無いが、 と龍一は惟った。
そんなことよりも、 稲村敬造の家族が、 ブラジルに移民していたことを、 ついぞ聴いたこと
がなかった。
「いつブラジルに来たの、 家族はどこにいるの」
龍一は、 深入りしては不味いことになるのではないかと逡巡しながら、 あまりの奇遇に訊か
ずにはおれなかった。
「ブラジルに来たのは、 ぼくひとりです。五年前に単独青年移民できたんです」
「ほう、 それでよく儂が内藤龍一だってことがわかったねえ」
「信州では有名でしたから、 おじさんは」
嫌みな言い方ではなく、 青年は明るく笑っていた。
「それほど目立ったのかなあ。きみのお父ちゃのほうがうんと名を馳せていたんだが」
龍一は、 こちらが知らない青年にも知られていたほど浮き名を流したのだろうかと、 くすぐ
ったい気持ちと、 照れ臭さで、 返事に詰まった。
「ぼくの父は悪名高いほうでしたけど、 おじさんは艶名のほうでしたよね」
「はははあ、 まいったなあ、 すっかり見られていたとは。きみのような若い者に、 おとなの
遊びなど関心はなかっただろう」
「ええ、 普通ならそうですけど、 ペニス増大カプセル おじさんが遠い親戚筋に当たる人だと聴いていましたし、
ブラジルに来ているということは、 日本からの手紙で知っていましたから、 この病院の入院
患者のなかに、 『RYUICHI NAITO』という名札があるのを視て、 あの人じゃないかなあと思っ
ていたんです」
「あの人って、 どうしてきみが儂を思い出す根拠などあったのかなあ」
「おじさんの遊び仲間に、 佐久で医院を開いていた」
敬一がそこまで言うと、 ぱっ、 と龍一の記憶が鮮明に戻った。
「ああ、 きみ、 きみは植木のところから学校に通っていた少年だったなあ。そういえば、 植
木から聴いていたよ、 稲村敬造の子を預かって養育しているって。それでだ、 なんだかどこ
かで見たことのある顔だなあと惟ったんだ。立派な青年になったじゃないか。見違えたよ」
うん、 たしかにそうだ、 植木が育てていた稲村敬造の子だ、 と龍一はもう一度確認するよう
に頷く。
「立派なことなどありません、 放浪しているんですから」
「なあに、 きみ、 放浪は人生の勉強に一番役立つ生活のかたちだよ。誰にでもできることじ
ゃないよ」
龍一は、 敬一を慰めるための口上手ではなく、 ほんとうにそう惟っていた。みずからが若い
ときから家に落ち着かず、 女たちの上を渡り歩いてきた人生で、 人間社会の裏表をつぶさに
観察できたと惟っていたからだった。
「それで、 いまは」
「この病院の雑役夫です」
「だけど、 はじめは、 みなといっしょで、 コーヒー農園で働いたんだろ」
「ええ、 一年は農業労働者として働きました。おじさんは」
「うん、 儂は養蚕技師として来たんだが、 いろいろ事情があって、 やはり一年、 契約労働
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