縮陰膏 なにごとにも、 ひと講釈なければならない龍一だった。
「さよさよ、 わてら日本人の食文化の豊かさだすなあ。暑い盛りに熱いもん汗たらたら流しながら食うちゅう醍醐味なんかわかりまへんやろ」
茂はお愛想に合わせたのではなかった、 スーパー潤滑剤 日本人なら誰でも知っている、 大阪の食い倒れと言うくらいの、 食い物には銭金を惜しまない道楽者の文化を自慢したかったのだ。
それがブラジルまで来て、 なおも借金に苦しまなければならない原因になったとしても。
「うわあ、 食文化だって、 おじさんに似合わない言葉遣って」
柳子がおかしくて、 ははは、 はははと笑う。
「あれえ、 柳ちゃん、 えらいわてのこと見縊りはりますねんなあ」
「見縊ってるんじゃないけど、 おじさんはいい恰好するお父さんの付き合いしないほうがいいわよ、 とことん庶民的なほうが似合ってるもの」
「そういうもんだすかいなあ、 わてかて八年も学校に行ったもんだすさかい、 つい教養が出てしまいよりましてなあ」
茂は、 さっそく柳子と漫才口調に遣り合う楽しみに入ってゆく。
「お父ちゃん、 落第したんか」
春雄もさすがに小森の長男らしい受け方をして、 なかに割り込む。
「なんでだすねん、 落第なんかしてしまへんで」
「そやかて、 狼1号 お父ちゃんの子どものときは、 小学校は四年までやった言うてたやんけ」
「お父ちゃんはね、 勉強好きやったさかい、 人の倍も勉強しはりましたんや」
皮肉たっぷりに口を入れたのはタツだった。
「そうだす、 お母ちゃんの言う通り、 お父ちゃんは勉強好きだしたさかいな。二度小学校に行きましてん」
茂は、 タツに逆らわず肯定する。タツへの阿りではなく、 隣人に不快感を与えないためだった。
「嘘やあ」
春雄が、 ばっさりと否定する。
「嘘と坊主の頭はいうたことおまへん」
「おじさん、 男宝カブセル それなんのことぉ」
さっそく柳子が疑問を糾しに入る。
「へえ、 それて、 どれだす」
「嘘と坊主のことよ」
「嘘と坊主がどないしはりましたかいな」
茂は、 柳子の質問がわかっていながら、 とぼける。
「嘘と坊主の頭はいうたことないってことよ」
「ああそう言いましたかいな。わてはいつもほんまのことしか言わしまへんし、 坊主の頭に髪の毛おまへんさかい結われしまへんしな」
「ああ、 そうかあ、 おじさん巧いこと言うわねえ」
「わてが言うたんと違います。むかしからそない言いますねん」
「むかしの人は頓智が利くのねえ。言うと結うを引っ掛けたのね」
「そうだすがな。わてかてむかしの人だすさかい。小学校しか出てんでも、 これくらいのこと言えますでえ」
「どれくらい言えますのぉ」
「柳ちゃんの頭も男刈りで髪結い要りまへんな。そやさかい、 すうすうしてて、 冴えてはりますねんなあて」
「そうなの、 頭の外側も鬱陶しくないし、 頭の内側も鬱陶しくないし、 髪結いいうような面倒も要らないし、 経済的だし、 一挙両得どころじゃないわよ」
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