と言うのが、 まるで哀れな奴隷のようで、 なんとかできないものかと、 柳子の義憤を駆り立てた。
しかし、 小森一家が残した借金が、 どれほどなのかも知らないし、 父にそれを肩代わりしてやれるほどの力があるのか、 ないのかわからないし、 きりきりする気 持ちを処理できなくて、 自分がここを出てゆくのが、 後ろ髪引かれるというのは、 精力剤 こんなときのことを言うのだろうなあ、 と柳子に思わせた。
そんな柳子の歯がゆさをさらに大きくさせたのは、 タツの負け惜しみだった。
「熊野はんが、 わてらにようしてくれはるし、 あとの一年は楽なとこに回してくれはるらしおますしな。もう一年ここで頑張ったら、 なんとかなりまっしゃろ」
なんとかなるとは思えないのに、 そんなことを言って、 彼女自身の虚栄心を慰めているとしか見えなかった。いや、 それだけではなく、 もう一年ここに残りたいのは、 タツ自身の熊野への未練だったのではないのか、 と言ったのは龍一だった。
労働している人数だけは、 中村のところと同じ五人なのに、 そして、 子らが育ち盛りだすさかい、 と言っても、 冬二、 如月、 季夫たちの食べる量が、 労働量を凌 駕するほどのものなのか、 滋養 と疑問したくなるのだが、 生活の仕方のどこかに穴が空いていて、 強壮剤 せっかくの苦労が洩れてしまうのではないのか、 と柳子は口惜しが る。
それも他人の家庭内のことだから、 どうなるものでもなかったのに。
柳子は、 秋子と堅く手を握りあって、 心を通じ合うしかない。でも、 漢方薬 確かな感覚で、 秋子のひんやりしている手から暖かい彼女の気持ちが伝わってくるのがわかる。
これが人間だけが感覚し得る霊的なものなのだ、 と思う。千万の言葉よりも、 いっそう多弁な心の言葉だとも思う。
もう何も言わなくてもいい、 と思ったのだけれど、 秋子が、
「ここほんまに聾桟敷で、 よそのことさっぱりわからへんよって、 柳ちゃん向こうへ行ったら、 なんでもええさかい観たこと聴いたこと報してくれるかあ」
と言ったのが、 きっかけになって、 とつぜん多弁になってしまう。
「任しておいてよ、 それこそわたしの得意とするところよ、 新聞記者の卵なんですからね。日本人のことから、 ブラジル中のこと、 全部書いて送るわよ」
「ほんまにね」
「ほんまも嘘も全部書いてしまうわよ」
「嘘書いたらあかんしぃ」
「嘘うそ、 嘘は書かないけど、 少しは小説的に書くかもね」
「まあその程度ならええけど」
柳子の率直さが気持ちのいい秋子だった。
秋子とは対照的に、 柳子は、 秋子の、 いかにも女はこうあらねばならないと、 いいたいようななまめかしさが、 自分にはないものだと思っていたから、 彼女の傍 に居るだけでいい気持ちになるのが習慣になってきていたのに、 これから彼女の居ない生活のなかで、 そのなまめかしさを味わえないのを、 何でカヴァすればい いのだろう、 と考えて、 自分ながら、 びっくりする。
あのとき、 熊野から、 同性愛ではないのかと誤解されたのが、 誤解ではなく正解だったのかもしれない、 こんな情緒を求めているなんて、 と惟うと、 なんだか顔が火照るのを覚えた。
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