桜組挺身隊には多額の寄付金を納めていて、 特別待遇されるほどだったのだから、 金がないわけではなかった。
移民してきたのも政府の金でだったから、 帰るのも政府の金で、 という単純な計算と、 爪を灯すようにして蓄え
てきた金は、 海の上を渡るために藻屑としてしまうのではなく、 倍になって帰ってくるものでなければならなか
ったのだ。
長男は、 ゆくゆく国会議員になりたくて、 ブラジルに来ている沖縄県人がもっとも多いのを利用し、 政治運動
に余念がなかったが、 次男、 三男は手堅い商売をしていて、 清源が故郷に一度帰ってみたいということを洩らす
と、 子どもらが旅費を出し合うからと言ったのだが、 それを断り、 桜組挺身隊に入隊すると、 政府が回漕してく
る帰還船に無料で乗れるから、 帰国は政府の費用でするのだと言って、 息子らが止めるのも聞かずに入隊してき
たのだ。
その上、 沖縄に帰ると自分が遺産相続できるものがあるから、 それを換金して、 ブラジルに帰ってくる船賃を
出してもまだ余るはずだから、 旅費など一銭も要らんのだと言うのだ。
それを捕らぬ狸の皮算用って言うんだよ、 お父さん
三男がそう言って笑ったが、 歳も歳だし、 ほかの隊員たちといっしょになって、 厳しい訓練などしなくてもい
いだろうし、 母がまだしっかりしているから、 親父の世話をしてもらえるし、 と兄弟が相談して、 清源には内緒
で吉賀谷のところに行き、
勝ち組のかちかちだから、 どう言って聞かせても埒が明きません。ご迷惑になるでしょうが、 どうぞよろしく
お願いします
と幾ばくかの寄付金を包んで、 老夫婦を預けることにしたのだ。
吉賀谷のほうは、 勃起力減退 どうせ隊員宿舎のなかでごろごろしているだけのことだから、 迷惑になることもない。寄付
金が入ればそれに越したことはないのだから、 といちおうもったいぶった講釈をして、 入隊を許可した。
目先の利く吉賀谷だから、 虚弱体質 花城の息子たちが、 それぞれ店を構えて、 生活にゆとりがあるのを知り、 今後も何
かの折には何らかの理由をつけて金を無心することもできるだろう、 と計算はできていた。
生活に困って無銭帰国しようと考えたのではないから、 花城清源のほうものんきなもので、 沖縄では三線とい
う愛用してきた蛇皮線を爪弾き、 声のいい妻に沖縄民謡を歌わせる毎日だったから、 隊員たちも気分が和み、 煩
がるものはいなかった。
バストス組にも、 花城清源によく似た、 のんきそうな岡谷夫婦がいたが、 こちらは両親の温厚な顔立ちそっく
りの娘や息子もいっしょに来ていて、 その上品な雰囲気を醸し出している様子が、 誰の眼にも場違いな感じを与
えた。
バストス組のなかには、 養鶏場を経営していたものが多かったが、 なかでも岡谷は、 早漏 ずば抜けて大きく養鶏業 体力の衰え
を営み、 それを売り払って、 またニューギニア島開拓の辛酸を舐めるのを覚悟する理由が、 誰にも理解できなか
った。
安西も、 その話を聴いて調べてみたが、 岡谷は、 いつも笑顔を崩さないばかりか、 桜組挺身隊に入ってきた理
由を、 頑なに話して聞かせることはなかった。
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