2011年12月5日星期一

虚弱体質 見聞したものを素直に受

ああ、 そうかあ、 なるほどなあ、 そういうことだったのか、 意識して、 ああだこうだと考えなくても、 自然はそういうふうにできているものなのだ、 と柳子は納得する。
納得させるものが、 ブラジルの風土には在る、 と惟う。
ちょっと強引に納得させられたようにも思うけれど、 この荒々しい風土に、 わたしは馴染めそうな気がする。
そんな気がした時点で、 ブラジルに来てよかったのだ、 と肯定的に結論づける。
お父ちゃは、 この農場での一年は、 ブラジ
ル生活の予行演習だから、 その授業料を払っても安いものだと思えばいいさ、 と陽気に言ってくれたけれど、 たしかに有意義な一年だったから、 汗水流した代償 を貰わなくて、 臨時雇いの労賃を支払い、 罰金を払っても、 まだ余りある最初の年だったと思っていいかもしれない。ちょっとそろばんの弾き方がおかしいとは 思うけれど。
さあ、 これからが本番だぞ、 勃起不全 と龍一が言うと、 勃起障害 ああ、 お父ちゃも、 いよいよ本腰を入れるんだなあ、 と柳子もその気になったのだから、 親子揃ってのんきなこと はのんきなのだが、 これでいいのかどうかは、 誰にもわからない。行く末のことなど考えないほうがいいだろう。なるようになってゆくもんだ、 とお父ちゃも言 うのだから。
少し自己欺瞞が強すぎるとは思うけれど、 のんきだから、 他人に膝を屈することもなくこれたのだ、 といえるかもしれない。
柳子は、 須磨子が神に跪きながらも、 誰かの子を宿し、 神の怒りに触れて流産し、 秋子が熊野に跪いて、 自己を喪失した現場を目撃しているから、 いっそう、 わたしは誰に向かっても膝を屈することはしない、 という決意を持てたのだと思っている。
彼女らは、 わたしにとって反面教師だったのだと、 彼女らを非難するより、 かえって礼を言いたい気持ちが勁かった。
鷹彦の場合は、 神に膝を屈したとは思いたくなかった。彼の思想がそれほど軟弱な思想だったとは思わない。それよりも、 他人から青白い文学青年だと敬遠されながら、 須磨子や文子に謎を遺して逝った鷹彦の執念のほうが立派だったのだ、 と思おう。
そういえば、 鷹彦を敗者のように軽蔑していた熊野も、 みずからの欲情を満足させるために、 秋子に向かって膝を折ったといえるのではないのか、 とあの日、 雑木林のなかで立ち上がった熊野の膝が、 青汁で汚れていたのを想い出す。
そうだ、 秋子さんにこのことを言うのには、 どういう表現をすればいいのだろうか、 膝を屈したのは秋子さんではなく、 熊野のほうなのよ、 と知らしてあげたいけれど、 言葉にするのが難しいなあ。
まあ、 もう少しおとなになれば、 あのときの状況を、 笑いながら言えるようになるのかもしれないと思って、 そういう機会がくるまで、 心の底に収めておくことにする。
もしもそうだとすれば、 熊野ばかりではなく、 鷹彦も生身の人間だったんだなあと思って、 楽しくなる。彼が特別偉い人ではなく、 勃起力減退 普通の男性で、 生臭いことをしていたのだとわかっても、 わたしは軽蔑しない、 その方がわたしの兄さんという実感を持てると思う。
ガイジンが生身を臆面もなく曝け出してセックスしているのを見ても、 わたしは眼を背けずに観察したのだ。だから鷹彦さんが、 生臭いヒトという動物を剥き出しにしても、 わたしは臆せず、 その現実を直視し、 虚弱体質 見聞したものを素直に受け止めるつもりだった。
「そうだよ、 柳ちゃん、 人間も神の子ではない、 動物の一種だから、 死ねば天国に昇るのではなく土に埋められて溶けてしまうんだ。ぼくは宗教的なことは考えないけれど、 種族保存の肉体的な継続性は信じているんだから」
溶けるからどうだという、 結論を聴かないうちに、 彼は死んでしまったけれど、 単純に考えて、 大地の肥料になるのなら、 何かに生まれ変わるということも言え なくはない。それよりも、 種族保存の肉体的な継続性は信じていると言ったのだから、 あの人も、 彼自身の肉体が継続的に保存されてゆく予想はしていたのだろ う。
もしもそうだとすれば、 彼も決してひ弱な人ではなく、 健全な男性だったのだと言えるではないか、 とうれしくなってくる。
ペリキットの黄緑の鳴き声は、 途絶えることもなくつづいていた。この鳥たちは朝起きたときから夜寝るまで、 こうして鳴きつづけているのだろうか。この無縁 墓地では決して鎮まる魂が無いだろうから、 ミサの曲を奏でつづけて止めることがないのかもしれない、 と思いながら柳子は、 鷹彦の卒塔婆に向かって跪き、 手 を合わせ、 心を卒塔婆のなかに浸透させ、 鷹彦がまだ溶けずに眠っているはずの、 新仏のところまで届きますようにと祈ったあと、 未練を残さず立ち上がる。
彼が、 いつも、 すがすがしい柳ちゃんが気分を良くしてくれるよ、 と言っていたから、 潔いところを見せなければ、 と思ったのだ。
別れるといっても、 この墓地に彼の死体を埋めるのを目撃したことで、 彼が埋められている場所から別れるのであって、 彼が遺書に書いていたように、 「さよなら」を言わないでもいいのだ。

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